清水 久仁子(しみず くにこ)さん
清水さんが働く老人ホームでは、将来「施設を地域の財産に」していきたいとの願いから、地域の方々とイベントを開催したり、PRスペースを老人ホーム内に設けるなどの活動に取り組んでいます。
また、「福祉施設には医療の協力は無くてはならない。」と強く感じ、医師や看護師と常に連携できる運営に取り組み、後進の育成・指導にあたっています。
社会福祉法人仁正会さがみ湖桂寿苑施設長。一般社団法人相模原市高齢者福祉施設協議会監事。相模原市社会福祉協議会権利擁護事業審査会委員。
この仕事を始められて30年と伺いました。福祉の仕事を始めたきっかけは何ですか。
はじめは一般の民間企業で働いていました。売り上げで人の価値が評価されることに違和感を覚えたことがきっかけでした。この世界に入り、施設を利用される方は人生の先輩ばかり。様々な経験をしてきた人達から、色々なことを教えていただいたり、たくさんのことを学んでいます。そこで感じたのは、知らないことを「知らない」と正直に言うことも大切だということです。利用者と正直に向き合うことで勉強させていただいています。
このように利用者と接していると「まだ良くなる」「まだ良くできる」という気持ちが湧き、向上心が生まれてくるのです。
今までどのような取り組みをされ、実現してこられましたか。
私は以前いた施設で、利用者の生活には「医療はなくてならないもの」であると感じました。
現在の施設では、開設時からターミナルケアをする環境を整えることができました。隣に関連施設である介護老人保健施設があり、医療と組み合わさることで、「データに基づいた 根拠が明らかな介護」が可能です。
常に医師や看護師がいることでご家族からも「安心できます」との言葉もいただいています。
「さがみ湖桂寿苑」と隣接する医療法人社団の介護老人保健施設「ケアガーデンさがみ湖」 |
取り組みをしているなかで、目指してきたことはありますか。
利用者とその家族が「この施設に出会えて良かった」と思える場所を目指しています。
そのためには当然職員一人ひとりが高い専門知識や技術の修得者であることはいうまでもありませんが、利用者の皆様の生活を思い出として残すことがとても大切だと思っています。利用者の日々、日常の何気ない表情を写真に撮り、「こんなに笑っている」「こんなに楽しそうにしている」とご家族に感じていただける瞬間が嬉しいです。
地域との関わりで大切にしていることはありますか。
この老人ホームが「地域の財産」であってほしいと思っています。地元の人がこの施設を使ってくださることが一番良いと思っています。
例えば、夏には納涼祭を行い、地元の方々にボランティアで参加をお願いしています。
各ユニット(※)ではゲームをして過ごす利用者の方もいらっしゃるので、地域の方にはぜひ遊びに来てほしいものです。
また、地域の方には健康増進事業に参加していただいたり、知的障がい者施設と連携し、洗濯のお仕事を頼んだりしています。私が携わる障がいのある方々は、真面目で、教えられたことを継続する力があり、いつも「すごいなぁ」と感心しています。
こうしたつながりから、この老人ホーム内にも障がいのある方々が制作した商品を販売する相模原市内の障がい者の作品を販売している「バオバブ」のお手伝いをさせていただき、一部商品を取り扱っています。
障がいのある方の力も借りながら、多くの人に支えられていることを実感しています。また、相模湖地区の高齢者支援センター(地域包括支援センター)の運営、業務も受託していますので、今後ますますこの施設が地域の方々のお役に立てれば大変嬉しいです。
※ユニットとは、少人数グループ(10人以下)をひとつの生活単位(ユニット)として区分けして、1ユニットごとに専用の居住空間と専任の職員を配置することにより、大規模(多数床)施設でありながら、小規模生活単位の家庭的な雰囲気のなかできめ細やかな介護ケアを行なうことができるものです。
~さがみ湖桂寿苑内にある障がい者作品の売店スペース~ |
最後に、このお仕事を目指す、若い方々にメッセージをお願いします。
この業界で働いていると「3K」という言葉(きつい・きたない・きけん)が浮かび上がってきます。こうした後ろ向きなキーワードではなく、私は福祉の未来を前向きにとらえるための「未来の3K」に変えていきたいと思っています。
私の考える「未来の3K」は、職員が輝いて仕事ができる「輝くK」。カルテ等の医学的な観点を持ち、相手を納得させる技術や知識を身に付け自信を持ってサービス提供するための「科学的なK」。最後に、いくら知識や技術があっても行動が伴っていないと相手は納得しないと思うので「行動のK」。以上の「未来の3K」が大切だと思います。熱意を持って働くことが重要です。
この「未来のK」を大切に若い方には頑張ってほしいと思います。
また、人材は仕事を通じて「3つに変化する」と学生にはメッセージを送っています。まずは、材料としての「人材」。木材や角材もそうですが削らなければ使用できないことから、まずは一生懸命働く。
次は財産としての「人財」。お金を稼いで、家族や社会のために働けるような人になること。そして、この業界において働く過程でもうひとつ人材があると気づきました。それは「人が在る」と書いて存在としての「人在」。人生の中で「あなたでよかった」「あなたが必要」と思われる存在になることが大切だと思います。
若い人達が人生の中で「自分のやる気スイッチ」を押してくれる場所に出会えるようお祈りしております。それが福祉の仕事だったら私は大変嬉しいです。